
マテウス・アサトのフェンダー移籍は、近年のギターシーンにおいて最も衝撃的なニュースのひとつでした。長年にわたりSuhrを愛用し、モダンでハイファイなトーンを武器に世界的評価を確立してきた彼が、なぜFenderへ――。その電撃移籍は、国内外のギターファンの間で瞬く間に話題となりました。
とくに注目を集めたのが、原宿で開催されたお披露目イベントです。旗艦店に集まったファンの前で奏でられた“あの緑のストラト”のサウンド。演奏動画のコメント欄には「うますぎる」「音が歌っている」と絶賛の声が溢れ、単なるブランド変更ではない“何か”を感じ取った人も多かったはずです。
そして今、多くのファンが気になっているのは、アルバムやMVでも使用されている深いグリーンのストラトキャスターの正体。実はそれは、原宿で偶然出会ったマスタービルダー製の特別な1本でした。本記事では、マテウス・アサトがフェンダー移籍を決断するに至った真相と、話題の緑のストラトに隠された運命のストーリーを詳しく解説していきます。
目次
第一の相棒:American Ultra Luxe Vintage ’60s Stratocaster

「緑好き」の彼が選んだ実戦機 ― 専用カスタムのサーフグリーン
フェンダー移籍後、最初にステージへ持ち込まれたのがAmerican Ultra Luxe Vintage ’60s Stratocaster。
ベースとなっているのは市販モデルですが、実際にはマテウス・アサト専用のカスタム個体とされています。
細かな仕様変更の全貌は公表されていません。ただ、外観で確認できる大きな違いとして挙げられるのがカラーです。通常のサーフグリーンよりもやや深みのあるグリーンに仕上げられている印象があり、彼の好みに合わせてトーンが調整された可能性があります。
もともとグリーン系のギターを愛用してきた彼にとって、色味は単なるデザインではなく“楽器との距離感”を決める重要な要素。視覚的なフィット感も含めて、特別仕様の1本だったことは間違いありません。
純正スペックの驚き ― S-1スイッチの魔法
基本構造はUltra Luxeシリーズの設計思想を踏襲しています。
中でも特徴的なのが、ボリュームノブに内蔵されたS-1スイッチです。
ノブをプッシュすることで配線が切り替わり、通常のストラトサウンドとは異なる太く押し出しの強いトーンを出力できます。ニュアンスとしては「テレキャスターのような芯のある音」に近いキャラクター。
ストラトらしい煌びやかさと、よりコンプレッション感のある太さ。その両方を1本で使い分けられる点は、ジャンル横断的な彼のプレイスタイルと非常に相性が良い仕様です。
ハイポジションの操作性 ― テーパード・ネックヒール
テーパード・ネックヒール(ヒールカット)構造も大きなポイントです。ネックジョイント部が滑らかに削り込まれており、ハイポジションへのアクセスが非常にスムーズ。
マテウスのように高音域で歌うフレーズを多用するプレイヤーにとって、この設計は演奏表現を妨げない重要な要素です。従来のストラトで感じがちな“引っかかり”が大幅に軽減されています。
モダンな足回り ― ステンレスフレット&コンパウンドラジアス
フレットには耐久性の高いステンレス素材を採用。滑らかなチョーキングと長期的な安定性を両立しています。
さらに指板はコンパウンドラジアス仕様。ローポジションではコードワークがしやすく、ハイポジションではベンド時の音詰まりを防ぎます。ヴィンテージスタイルの外観とは裏腹に、演奏性は徹底的にモダンです。
マテウスの反応 ― 「1本で両方の音が出せる」
本人も「ストラトもテレキャスも使う自分にぴったり」と語っていますが、このモデルはまさにその思想を体現しています。
専用カスタムという特別感に加え、機能面でも実用性が非常に高い。
フェンダー移籍後の“第一の相棒”として、このUltra Luxeが選ばれたのは必然だったのかもしれません。
本命の正体:トッド・クラウス作「MBSストラトキャスター」

シグネイチャーではなかった? ― 予想を裏切る一点もの
フェンダー移籍後、アルバムやMVで頻繁に登場し、ファンの間で「シグネイチャーモデルでは?」と噂されたあの緑のストラト。しかし実際は量産モデルでも契約発表用のプロトタイプでもなく、Master Built Seriesによる一点ものだったことが明らかになります。
つまり、ブランド側が“用意した象徴的モデル”ではなく、彼自身が惚れ込んだ個体。ここが大きなポイントです。シグネイチャー前提の設計ではなく、完成された1本に出会い、結果としてそれが彼の音楽を象徴する存在になった――順番が逆だったのです。
ビルダー界の巨匠 ― トッド・クラウスによる魂の1本
このギターを手掛けたのは、フェンダー・カスタムショップのマスタービルダー、Todd Krause。
エリック・クラプトンのシグネイチャー製作でも知られる名匠であり、木材選定から最終セットアップまで徹底的にこだわることで評価を集めています。
マスタービルダー製作のギターは、単なる高級ラインではありません。一本一本が“作品”として扱われ、同じ仕様であっても鳴りやニュアンスは個体ごとに大きく異なります。だからこそ、マテウスが惹かれたのはスペック表ではなく「鳴り」そのものだったのでしょう。
ルックス ― 深みのあるグリーンと鼈甲ガードの気品
外観も印象的です。
深みのあるグリーンフィニッシュに、鼈甲(べっこう)ピックガード。派手さよりも気品を感じさせる佇まいで、ステージ照明の下では独特の陰影が浮かび上がります。
サーフグリーン系とはまた異なる、やや落ち着いたトーン。単なる“緑好き”という枠を超えた、成熟した美意識を感じさせる配色です。
結果として、このMBSストラトは単なるメインギターではなく、フェンダー移籍を象徴する存在になりました。シグネイチャーより先に“運命の1本”があった――それが今回の移籍劇を語るうえで、最も重要な事実かもしれません。
運命のストーリー:2024年、ハネムーンの原宿で

偶然の出会い ― 旗艦店3階での一目惚れ
物語は2024年、プライベートな来日から始まります。
ハネムーンで日本を訪れていたマテウスが立ち寄ったのが、原宿にある Fender Flagship Tokyo。
3階のカスタムショップフロア。壁一面に並ぶ特別な個体の中で、ひときわ存在感を放っていたのが、トッド・クラウス製のMBSストラトでした。
目的買いではありません。たまたま足を運び、たまたま目に入り、そして手に取った。まさに偶然の出会いでした。
忘れられない「木の鳴り」 ― オーガニックな響き
試奏した瞬間に感じたのは、これまでのメイン機とは異なる響きだったといいます。
Suhr時代の洗練されたハイファイなトーンとは違い、よりダイレクトに“木の鳴り”が伝わる感覚。ピッキングのニュアンスがそのまま空気に溶けていくような、有機的なレスポンス。
アンプを通す前の生鳴りの時点で、明らかに何かが違った。
それはスペックでは説明できない感覚的な部分であり、プレイヤーにしか分からない“確信”だったのかもしれません。
「ツテを頼って」取り寄せた情熱 ― 帰国後の決断
その場で即決したわけではありません。
しかし帰国後も、あの鳴りが頭から離れなかったといいます。
ツアーや制作の合間にも思い出す、あの原宿での感触。
最終的には関係者のツテを頼り、日本から取り寄せるという決断に至りました。
偶然の試奏が、ブランド移籍という大きな選択へとつながる。
この1本との出会いがなければ、フェンダーへの移籍はもう少し違った形になっていたかもしれません。
原宿の3階での静かな試奏体験が、世界的ギタリストのキャリアを動かした――そう考えると、このストーリーは単なる機材選び以上の意味を持っているように感じられます。
サウンド分析:SuhrからFenderへ、何が変わったのか?

音色の変化 ― ハイファイから“木の鳴り”へ
長年メインに据えてきたSuhrは、分離感の良さと整ったレンジ感が特徴でした。ローからハイまでバランスが良く、コンプレッションも適度。レコーディングでも扱いやすい、いわば“完成されたモダンサウンド”です。
一方、フェンダーへ移行してからのトーンは明らかに方向性が変わりました。
アタックの立ち上がりがよりナチュラルになり、倍音の広がり方にわずかな荒さが残る。その“隙間”が、音に呼吸を与えています。特にクリーントーンでは、ピッキングの強弱がより露骨に出るようになり、木材そのものの振動が伝わってくる印象です。
洗練されたハイファイサウンドから、ダイレクトに木の鳴りが前に出るオーガニックなトーンへ。
これは単なるブランド変更ではなく、音楽的な価値観のシフトとも言える変化です。
ファンの声 ― 「うますぎ」が溢れた理由
原宿でのお披露目演奏後、SNSや動画コメント欄には驚きの声が相次ぎました。
何より多かったのが、「うますぎる」という率直な反応です。
もちろん演奏技術そのものは以前から圧倒的でした。ただ、フェンダーに持ち替えてからは“音の表情”がさらに前に出るようになったと感じたファンが多かったのでしょう。
音の整いすぎない部分、倍音のざらつき、弦の揺れのニュアンス。
そうした要素が強調されたことで、フレーズがより“歌”として響くようになった。
結果として、ギターそのものが前に出るのではなく、プレイヤーの感情がよりダイレクトに伝わるサウンドへと進化した――それが、今回の最大の変化なのかもしれません。
まとめ:運命の出会いが移籍を決定づけた

移籍の真相 ― 機能性と“鳴り”の両立(※あくまで私見)
ここまでの流れを踏まえると、今回のフェンダー移籍は単なる契約変更ではなく、楽器との出会いが大きな転機になった可能性が高いと感じます。
もっとも、移籍の本当の理由は本人のみぞ知るところです。以下はあくまで私の想像として読み進めていただければと思います。
実戦的な機能を備えたUltra Luxeというモダンな選択肢。そして原宿で出会ったトッド・クラウス製MBSストラトの圧倒的な“木の鳴り”。
この二つが揃ったことで、「いま自分が鳴らしたい音」がフェンダーにあった――そう感じたのではないでしょうか。
最新の演奏性と、理屈では説明しきれないトーンの魅力。
この両立が、心を動かした要因だったのかもしれません。
結論 ― MBSストラトとの出会いが決断を後押しした?
シグネイチャーモデル前提ではなく、1本の個体との偶然の出会いが先にあった。
この流れを見る限り、MBSストラトとの体験が移籍の決断を強く後押しした可能性は高いと考えられます。
原宿での試奏、忘れられない鳴り、そして日本から取り寄せるという行動。
ここまでのストーリーが事実である以上、少なくともそのギターが大きな意味を持っていたのは間違いないでしょう。
ブランドを変えたというより、“音に導かれた”結果だった――そんな印象を受けます。
今後の期待 ― マテウス×フェンダーの新章
フェンダーという歴史あるブランドと、現代的な感性を持つマテウス・アサト。
この組み合わせがどんな音楽を生み出していくのか、今後が楽しみです。
よりオーガニックなトーンを軸にした新作、ライブでの表現の深化、そして将来的なシグネイチャーモデルの可能性。
移籍はゴールではなく、新しい章の始まりに過ぎません。
あの緑のストラトから始まった物語が、これからどんな景色を見せてくれるのか。引き続き注目していきたいところです。
